労務に関する特別対談

自分らしく、共に成長する職場。働くことを楽しむ多様性とつながり

美しく多様な価値観が繋がる現代に「自分らしく働く」ために私たちができること

ちよだ桜並木社会保険労務士法人の取引先や提携士業の方を招いてお話を伺う労務対談企画の第1弾である今回は「いきいきと働く女性が活躍する現場」からお話を伺うことといたしました。

今回のテーマにふさわしい、新進気鋭の弁護士である楢原先生、司法書士として豊富な知見をお持ちの阿部先生、そして、女性が活躍できる場所を50年以上にわたって運営してこられた青山きもの学院の院長新田先生をお迎えして対談が実現いたしました。

会場は青山きもの学院、青山本校をお借りいたしました。

冒頭写真:右から新田先生、阿部先生、楢原先生、当法人荒川。 会場:青山きもの学院 青山本校

多様性の波は各界へ伝播。女性を取り巻く労働問題。

日本における女性の社会進出は長年論じられてきたテーマでした。

近年では女性の労働参加率は向上しているものの、まだまだ多くの課題が存在しています。

たとえば、賃金格差、管理職への昇進の機会不平等、そして働き方の柔軟性などの問題です。

女性が働きやすい環境を整備することは、労働力不足や少子高齢化への対策としても極めて重要です。

企業経営者は、男性の育児休暇や、柔軟な勤務時間、テレワークなどの新しい仕組みを考案するなどして、労働環境の改善に努めていることが連日のように報道されています。

さらに、女性リーダーの登用や役員比率の向上を目指す取り組みが各方面で注目されており、政府や企業が積極的に女性活躍推進策を打ち出しています。

これによって、男女平等の意識が高まり、ジェンダーによる格差が縮小されるのではないかと期待が寄せられています。

こうしたトレンドの中では、総じて、女性の社会進出は日本の労働問題解決に向けて重要な要素となります。

しかしながら一方で「政府や大企業であれば対応できるかもしれないが、うちのような中小企業では対応するリソースがない」といった声や、そもそも「考えてもいなかった」といったお声をいただくこともしばしばです。

時には紛争となるケースもあり、楢原先生や阿部先生の元にも女性からの相談が絶えません。

訴訟を従業員の宣戦布告と捉える経営者との間でこじれてしまうケースを目にしたこともあるそうです。

変化する時代は、多様性を受容する局面へ。

AIの目覚ましい発達や少子高齢化など、時代は大きく変化しています。時代の波が押し寄せるのは、労働問題もまた、例外ではありません。

現役世代の減少に伴って、労働力低下が叫ばれる昨今では、現場の人不足はとても深刻な問題です。 こうした情勢では、柔軟な働き方や福利厚生の充実、多様な人材を受け入れる企業文化やリーダーシップの醸成も重要な観点となっています。

時代に合わせた労務環境構築の取り組みを進めることによって、労働者の働きやすさが向上し、ひいては生産性向上といったベネフィットも望めます。

中小企業の対応も待ったなしの状況となる中、創業以来女性が活躍できる場所を提供してきたのが「着付け学院」です。

50年以上にわたって着物文化の伝承と女性が働く場所の提供を行ってきた青山きもの学院では、学院の学習ロードマップとして、着付け学院の卒業後に講師や着付け師として成人式や結婚式の着付けを行なっています。2023年現在の卒業生はのべ1万人。在籍は103名。在籍講師のすべてが青山きもの学院の卒業生です。

新田葉子院長「色々な方がお稽古に来てくださいます」

新田 葉子 青山きもの学院 院長

昭和47年創立の着付け学院「青山きもの学院」の院長。 創立以来50年以上にわたり、一貫して道具を使わない手結び着付けを指導。 ともすれば「指導」という言葉が一人歩きしがちな学院運営において、常に生徒の声に耳を傾け、ひたむきにカリキュラムや運営の問題点を解消していく様は多くの生徒だけではなく校外関係者から大きな信頼を集める。 今回の対談にも美しい着物姿は人柄あってこそを体現したような佇まいでお越しに。 校舎は2023年現在、青山・日本橋室町・銀座・吉祥寺・荻窪の5校。 https://www.aoyamakimono.com

「1960〜70年代の高度成長期には「嫁入り修行」の一環として当然のように母親から伝えられてきた着付けも時代の変遷とともに、自分の美しさを表現する文化的な側面が大きくなってきました。」と新田葉子院長は言います。「着物についての受け取り方が変化するのと同じように、講師やスタッフの認識も時代に合わせて変化してきました。今後もどのように着物を取り巻く文化が変化していくのか、とてもワクワクしています。」

着物をより美しく着られるようになりたいという女性が挙って通う青山きもの学院のこだわりは伝統を重んじた手結び着付け。

手結び着付けにこだわるのは、簡易な着装ができる道具が生まれては消えていく着付けにおいて、もっとも美しく着付けができるからだということです。

着付けを教える人になりたい、と講師を目指す方お一人お一人と話し合い「青山きもの学院の伝統的な着姿をお伝えしていく、みんな仲間として協力をしながら結束を深めています。」

みんなで目標に向かって進んでいくという考え方が講師全員で共有できているのも、多くの生徒さんに選んでいただける理由のひとつなのかもしれません。

伝統の手結び着付けの指導を一貫して教えられるのは、担当する講師の指導があってこそ。

「着姿(着物を身につけた姿)が美しいのは道理に適っているからです。それは伝統が培ってきたもの。一方で時代や季節、年齢に合わせて身につける着物も変化します。変わらないものと変わっていくものを大切に受け止めていきたい、そんな風に思っています。」

着付けを習うのも女性なら、お伝えするのも女性。

講師との深い信頼関係構築は一朝一夕にいかないことを深く理解した新田先生の言葉に感銘を受けました。

今日も新田先生の挑戦は続いています。

楢原樹理先生「経営者と労働者の上下関係ではなく、共同で目標に向かう」

楢原 樹理 阿部•楢原法律事務所 代表弁護士

第二東京弁護士会所属。多岐にわたる分野の専門的知識と実績を持つ新進気鋭の弁護士。阿部氏は義理の母にあたる。 薬害エイズ訴訟における原告代理人弁護士の姿に感銘を受け、弁護士を志す。法的知識や専門的スキルはもちろん、しなやかなリーダーシップで多くの顧客を護り続けている。 「明朗快活」をモットーに迅速、活発に行動し、依頼人の未来のために全力を尽くす姿勢に多くの依頼が舞い込む。 http://abe-narahara.com

心理的安全を重視し「経営者と労働者という上下関係ではなく、経営者も労働者も共同で目標に向かう」という考え方が重要だというのは、楢原先生。

新田先生の考えと共通する部分です。

「トップダウンという形ではなく、同じ目標に向かって経営者の方と社員の方が同じこうビジョンを持って、同じ方向に向かって行くにはどうすればいいのかという点を、とても大事にしている経営者の方も最近多いようです。」コーチングにも造詣のある楢原先生は言います。

「心理的安全性などと表現されるように、上司のミスを部下がいかに指摘できるかといった社内の雰囲気、風通しの良さなど、新たな価値基準ができてきている、変わってきているなあと実感します。」

多忙を極める楢原先生は代表弁護士として事務所のマネジメントを担当している観点からとても興味深いご意見を伺いました。

「お金をたくさんもらえる仕事だとしても、自分のポリシーと反するような仕事は受けないというのが私たちの事務所のカラーの一部なのかもしれません。なぜかというと仲間に無理強いをすることで、誰かがメンタルやられてしまうのが嫌なのです。在籍されている弁護士さんは各自の裁量に一任していて、各人の判断を優先してもらっています。事務所の売上に貢献してもらうということよりも、その人なりのペースで働いていただいて欲しいのです。」

多忙な中で自らも子育てを行ってきた楢原樹理先生は、ライフイベントごとに働き方を変化できる組織づくりの重要性を自らの事務所運営にもしっかりと活かしておられます。

阿部麻子先生「内容証明が送られてくると大変驚かれる方も多い」

阿部 麻子 上野御徒町司法書士事務所 代表司法書士

個人、法人問わず各界から高い評価を受ける司法書士。対談の楢原氏の義理の母にあたる。 自身の経験に根ざして、感情豊かで司法書士らしからぬ軽やかなトークと深い知識で依頼人を問わずファンが多い。 とくに自らの離婚をきっかけとして、家庭、子供、お金など悩みの尽きない女性を支えている。 近年は「看取り」にも注力し、忙しく飛び回っている。 芸術への造詣も深く、自らのアトリエを持つ。 http://abe-asako.com

問題の本質を直視せず、事が起こってから驚く経営者がいかに多いかを教えてくださったのは阿部麻子先生です。

「内容証明郵便は一般の方でも利用することのできる仕組みであって、本質は手紙です。だけれども、内容証明郵便が送られてきた途端に大変驚かれる方は本当に多いのです」

なるほど確かに、手紙が送られてくるまで状況を拗らせてしまった、問題を放置してしまったという側面に目を向ける事ができないのは労働者にも経営者にとっても不幸です。

「中には宣戦布告だと感じる方もいるのかもしれません。」と阿部先生は続けます。

この人はどうして内容証明郵便を送ろうと思ったのか、当事者の気持ちになってよく考えることで状況を打開できるケースは実は少なくないとも教えてくださいました。

また、これまで長年にわたって多くの知見をお持ちの阿部先生は、女性として企業で働く労働者、そして女性経営者の両方の視点に欠かすことのできない精神的な側面にスポットを当てることの重要性を指摘します。

自らの豊富な経験から「女性は子供を授かれるという、まるで宇宙のような神秘的な力を持っている」と女性のチカラを表現され、女性が大切にされない社会が衰退するのは必然であることも指摘されていました。旧態依然とした経営手法では、現代の女性を搾取してしまうと心配されています。

海外事情や芸術文化に精通した阿部先生は、国内外での意識の違いにも言及し、子供を望んだらなるべく負担なく育てられる環境を作ることも大切なことだというのが一般的な考え方になってきた日本において、さらに女性が仕事と子育てに活躍できる社会へと変化する重要性を強調されていました。

労働環境の改善はスタンダードに

対談では、女性活躍の視点だけで見ても、良い会社の定義が変わってきていることを目の当たりにすることとなりました。

経営者、労働者双方の立場で日々仕事にあたられている士業の方々の意見と女性が従業員の9割以上を占める着物学院の院長との会話は、分野は大きく異なっていても、子育てや子育て後の職場への復帰等、女性への障害は残っており、それらを解決する事が重要であるという点で一致していました。

仕事の内容は異なっていてもやはり女性が活躍する機会をより増やしていくためには労働環境の改善が不可欠であることがよくわかりました。

こうした労働環境の問題は、経営者と従業員の間にある致命的なズレから生じるものが少なくありません。

制度や仕組みが複雑で理解しにくい

社会での女性の活躍と労働環境の改善が同じベクトルの上に存在する事がわかった今回の対談は、とても有意義なものになりました。 その中で、とりわけ興味深かった制度や仕組みが複雑な点について以下のようなやりとりがありました。

─── 制度や仕組みを知らない、活用する方法がわからない、といったケースは少なくないようです。

新田「確かに制度や仕組みはわかりづらいかもしれませんね」

阿部「はい。本当にわかりづらいのが制度や仕組みの説明や書類です。わざと難解な表現にいるのではないかと思うこともありますね」

─── 確かに、どんな書類をどこに出してといった実務の面はさっぱりわからないという方も少なくないかもしれません。

阿部「一般に、不備があったり戻されたり、事務作業に全然コストをかけられない経営者の方とか、普段まったくやってないような方はたくさんいらっしゃるかもしれませんね。」

楢原「確かに、事務担当の方とかに丸投げされちゃったら、すごく大変だろうな、っていうのはすごく思います。規模が大きくなればなるほど、人数も多くなって大変じゃないですか。」

荒川「制度的には複雑でわかりづらいものもあります。さまざまなケースを包括的に制度に含めようとした結果であって、しかたない部分があります」

楢原「実務で迷ったり、何から手をつけていいのかわからなかったりする時のために私たち専門家がいるわけですね」

新田「社労士は従業員を守ることによって経営者を守るということですね。今後、社労士が必要とされる場面は以前にも増して多くなる事でしょう。」

経営者と従業員の間で潤滑油の役割を果たすのが社労士

今回、新田先生の「社労士は従業員を守ることによって経営者を守る」という発言を受けて、社労士が持つ重要な側面が明らかになりました。

社労士が経営者と従業員間の円滑なコミュニケーションを促し、女性の雇用や労働環境の改善に大きな役割を果たしている事がわかりました。

現在では、労働環境の整備、たとえば36協定や就業規則の作成など、働く環境を整えることが一般的になっています。

こうした中で、楢原先生と阿部先生がおっしゃっていたのは「訴訟になる前にできること」というポイントです。

しっかりとした仕組みを構築することで、リスクへの対策ができ、女性にとって働きやすい環境を整えることが可能となります。これにより、現場に復帰してもらえたり、キャリアアップが期待できる良い循環が生まれます。

このような仕組みを継続的に作り上げることで、社労士は従業員を守ることによって経営者も守る役割を果たします。

従業員にとって経営者に対しての不満や労働環境の改善が求められると同時に、経営者にとって、従業員がもっとも恐ろしい存在である、という側面も無視できません。

なぜなら、彼らが反旗を翻したとき、経営者が打てる有効な解決策はほとんど残っていないからです。

多様性がクローズアップされる現代においては、労務においても事前に仕組みの必要性を理解し、制度や情報、そして労務を取り巻くトレンドを理解した上で経営を行うことが求められる時代に突入したと言えます。

何よりも情報が大切

制度が複雑で書類や計算を行うだけでも一苦労というケースもあるかと思いますが、そもそも、使える制度の存在を知らなければ利用できません。

助成金など多くの手厚い支援も、その存在を知らなければリスクとなることもあります。

使える制度の存在を知るためには、何よりも情報です。

法制度の変更などは、常に正しい情報に触れ、キャッチアップし続ける必要があります。

しかしながら、どのような情報を集めて良いのかわからない方もいらっしゃることでしょう。

ちよだ桜並木社会保険労務士法人では「社労使FC」を設けており、経営者や労務担当の方に向けて労務の問題について最新情報を受け取れたり、社労士への相談ができたりするクラブを設置しており、顧問契約がなくても労務の基礎的な内容や法改正などの情報を迅速に網羅してご紹介しています。

登録は無料ですので、ぜひこの機会にご登録いただければと思います。

まとめ

自分らしく、共に成長する職場。働くことを楽しむ多様性とつながりを大切にすることはいうまでもないことです。

しかし当然だと思うことも、実際に実務や仕事の作業に忙殺されていると、疎かになってしまうことがあるかもしれません。

美しく多様な価値観が繋がる現代に「自分らしく働く」ため、私たち社労士がお役に立てることは、実はたくさんあるのだということに改めて気づいた対談となりました。

対談にご参加くださった皆様、ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。

この記事が、労務環境に悩む方への一助となれば、幸甚です。

最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。